学生時代の友だちで家が異常に厳しいやつがいてました。
それはそれは厳しくて、8時には絶対家に帰らなくちゃ親父さんに怒鳴られるだけならまだしも飯は抜き、
おまけに、どつきまわされる。・・・・・・・というぐあいに。
そいつがあるとき、僕の家に遊びに来ました。
飯を食ったりして話しをしているうちに、フと時計を見ると、8時はとっくに回っていました。
友だち 「・・・・・・えらいこっちゃ!!8時まわっとるがな!!!!」
そいつは真っ青です。
友だち「どーしょう!・・・・ナーどうしょう?・・・・・・・・・・家に帰ったらメッチャ怒られんねん。・・・・・ナーどうしょう?」
僕「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・けがして、友達の家に居る。そう言っといたら?」
「足ネンザして、歩かれへんから、今日は、友達の家に泊まりたい。 そう言ったら?・・・・・・・・・・・・」
友だち:しばらく沈思黙考。
やがて、
友だち 「そーしょうか?・・・・・・・・・足ネンザして帰られへんのは不可抗力やもんな。・・・・・・・・・・・・・・・・・・よし、電話するわ。」
「モシモシ、・・・・・・・・・・僕やけど、これこれこういうわけで、今日は友達の家に泊まってもいい?・・・・・・・・」
「帰ってこい!」
友だち:迫真の演技です。気のせいか目にはうっすらと涙が滲んでいるような・・・・・・・・・・・・・
「さやけど・・・・・・・足・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・イタイ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「帰ってこい!」
「友だちも・・帰るの無理やから今日はとめたる、・・・・・・・・・・・・・・・・そう言うてんねんけど・・・・・・・・・・・・・・」
「帰ってこい!」
友だち「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「帰ってこい!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった。」
ガチャン
ツー
しばらく沈黙・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やがて、
友だち 「ドーショ、帰らなあかんわ。・・・・・・・・・・・・・・・・・さやけど・・・・・・・・・・・・・・・・おれ・・・・・・・・・・・・・・・・
足・・・・・・・・・・・・・・ネンザした、言うてもうた。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「帰って、足、何とも無かったら、嘘言うたいうて、また怒られるで。・・・・・・・・・・・・・・・」
僕「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
友だち 「 ナー、頼みあんねんけど、」
僕 「・・・・・・・・・・何?・・・・・・・・・・・・・・・」
友だち「俺の足、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぐってくれへん?」
僕 「 エッ?」
友だち 「 足、怪我した言うたのに、何とも無かったら親父またメッチャ怒りよる。
俺、ドツキ回されるねん。・・・・・・・・・・・・・飯もとうぶん食わしてもらわれへん。ナーこれで殴って。」
そう言って、友だちは、近くにあったセンヌキを僕に差し出しました。
友だち「ナー、・・・・・・・・頼むわ・・・・・・・・・どついて・・・・・・・・・・・
ナー・・・・・・・・・・・・・・・・どついて」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
僕 「わかった。・・・・・・・・・さやけど、恨むなよ」
友だち 「おーきに。 ほんなら頼むわ。」
そういって、友だちは、僕の前に右足を差し出しました。
(イヤヤナー)
だんだん気分が滅入ってきましたが、友だちの切実な頼み、断るわけには行きません。
僕・・・・・・・・・・・・「ほんなら、ドツクで?」
友だち・・・・・・・・・・「ちょっと待って、精神統一や・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ハーッ!
よっしゃ!」
「コツン」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
友だち「もっと、 強く!」
「コッツン」
友だち「もっと!」
「ゴッツン!」
「痛!」
僕 「強すぎたか?・・・・・・・・・」
友だち 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ウーッ!!痛 た た
・・・・・・・・・・・・・・・・・・イヤ、それでえーねん。それぐらいせんとネンザせーへんやろ?」
友だち・・・・・・・・・・・・・「よっしゃ、次や・・・・ちょっと待ってや、精神統一や・・・・・・・・・・・・フー・・・・・・・・・・・・・・・よっしゃ!頼むわ」
「ゴッツン」・・・・・・・・・「痛!」・・・・・・・・・・「ゴッツン」・・・「痛!」・・・・・・・・・・・・・
「ゴッツン」・・・・・・・・・・・・「痛!」
彼の足は、見事!腫れあがりました。
僕 「ハー・・・・・・・・・・・ハー・・・・・・・・・・・・・・・・・ハー・・・・・・・・・・・・・・・(汗)・・・・・・・・・もーえーやろ?」
友だち 「ハー・・・・・・・・・・・・・・ハー・・・・・・・・・・・・・・・・・ハー・・・・・・・・・・・・・・(汗と涙)・・・・・・・・・もーえーわ。」
僕の心の中に、なにか大きな事業を共同でやり遂げたような奇妙な連帯感が生まれていました。
友だちも自分の晴れあがった足を見ながら、多分、同じ思いだったのでしょう。
友だち 「ハー・・・・・・・・・ハー・・・・・・・・・・ハー・・・・・・・・・・・・・・・・・これだけ・・・・・・・・ハー・・・・・・・・・・・ドツイタら大丈夫やろ・・・・・・・・」
満足げな目で自分の足を見つめています。
友だち「ハー・・・・・・・ハー・・・・・・・・・・・のど渇いたなー」
二人は、一本の缶コーヒーを代わる代わる飲み干しました。そこには、まぎれもなく男の友情がありました。
一つのことを共同でやり遂げた連帯感。
そうして、友だちは引きずる足で、帰っていきました。
彼は親父さんに怒られたのかって?
サー?それは聞きませんでしたが、翌日、友達の足は昨日よりも3倍くらいに腫れ上がっており歩くことさえおぼつかない状態になっていました。
打撲の腫れというのは、打ったそのときより、翌日の方がはるかに腫れ上がるのですね。僕はそれをそのとき初めて知りました。
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