夏ですねー。
怪談の季節ですねー。
というわけで、今日は昔、僕が体験したちょっと奇妙な話しを書きます。
昔、大阪の長堀というところでビルの一室を借りてデザイン事務所をやっていたころの話しです。
そのビルは一階が飲食店、二階から上が貸事務所になっている、まー、典型的な雑居ビルというやつでした。
ビル全体が長細い長方形の形をしており、一番奥まったところにエレベータがあります。
二階より上の各フロアはエレベータを出て右が非常階段、左がトイレ、エレベータを出て正面左側にズーッと6〜7部屋ほど部屋が並んでおり、突き当たりに一部屋という作りでした。
そして、
エレベータと各部屋に通じる廊下の間にはシャッターがあり、そのフロアで最後の人はシャッターを下ろしていく決まりになっていました。
防犯のためですね。
ある日、季節ははっきり覚えていないのですが、そのときの体験から多分冬か、それに近い季節だったと思います。
たまたま、その日は僕がそのフロアで最後になりました。9時ごろだったと思います。
そろそろ帰ろうと僕は、筆洗を洗い、部屋に戻り、(そのとき部屋のドアは半分ほどあいていたのですが)、タバコを一服していました。
いすに腰掛け、ドアの方に向きながら、タバコを吸っていると、 ガーッ とエレベータの音がしました。
エレベータは僕のいるフロアで止まり、白いダウンジャケットを着、白いジーパンをはいた女の人が僕の部屋の前を通り過ぎ奥に歩いていきました。
このフロアの人でないのはすぐに分かりました。小さいビルですから、中の人の顔は覚えています。
(いったい、こんな時間に誰だろー?・・・・・・・・出前の食器でも取りにきたのかなー?)と思いましたが、それにしては一向に戻ってきません。
その人が帰ってくれなくてはエレベータの前のシャッターを閉めなければならないので帰ることが出来ません。
15分〜20分ほど待ったでしょうか、もちろん、その間、半分ほどあいた僕の部屋のドアから目を離しませんでした。
一向にその女性が戻ってこないので、僕も業を煮やして、廊下に出てみました。
奥を見てみると、どの部屋も電気が消えています。
(アレ?)
確かに女の人はまだ戻ってきていません。
奥のどこかの部屋に絶対いるはずなのです。降り口は奥にはどこにも無いのですから。
僕はソーッと奥の方に歩いていきました。どの部屋も部屋の中に人の気配がする様子もありません。
思い切って、僕は部屋のドアを コンコン、 とノックしてみました。
どの部屋からも何の反応もありません。
このあたりで、少し、気味が悪くなってきたのですが、もし、誰か人がいるとシャッターを閉めてしまうと中からは開けれなくなってしまうので、その人は閉じ込められてしまいます。
放っておくわけには行きません。
ドーショーカ?思いあぐねているとき、フと一番奥の突き当たりの部屋が妙に明るいのに気が付きました。
突き当たりの部屋は道路側になるので、そのせいか?と思ったのですが、それにしては、部屋の中から、ボーッとした明かりが感じられます。
僕は思い切って一番奥の部屋の前まで行きました。
中に電気がついているのかどうか、どうもよく分かりません。
コンコン と小さくノックしてみました。
何の反応もありません。
次にもう少し大きく コンコン、 とノックしてみましたが、やっぱり何の反応もありません。
僕は思い切って、ドアのノブに手をかけました。
ノブは何の抵抗もなく回りました。鍵はかかっていませんでした。
ソーッと僕はドアを開けました。
驚いたことに中は物置のようになっており、5坪ほどの部屋に、電気スタンド、壊れた椅子、ダンボール箱などが積まれていました。
それまで、その部屋が物置になっていることはまったく知りませんでした。
部屋の中の空気が妙に生暖かかったのは今でもはっきり覚えています。
もちろん、人影など見当たりません。
(マー、僕の思い違いだろう。帰っていったのに気が付かなかったんだろう。)
と思うことにし、僕は帰ることにしました。
部屋の鍵を閉め、シャッターの前で、僕はわざと大きな音をたて、ガラガラ・・・・・とシャッターを半分ほど閉めました。
どの部屋からも何の反応もありません。
ガラガラ・・・・・・・ やっぱり反応がありません。
ガラガラ、ガチッ、 シャッターを完全に下ろしました。
しばらくシャッターの前で、シャッターの向こう側の気配を探りましたが物音一つしませんでした。
それで、その日は家に帰ったのですが、不思議な気持ちは治まりません。
あくる日、僕は事務所の下の毎日行く喫茶店のマスターにその話しをしました。
僕の話しを黙って聞いていたマスターはおもむろに
「それ、いくつぐらいの娘やった?」
僕 「さー、多分、22〜23歳ぐらいやったおもうけど・・・・」
マスター「背、あんまり高いなかったやろ?」
僕 「うん、150ぐらいかなー?・・・・・・・・・・・・・」
マスター「髪の毛、長かったやろ?」
僕 「うん、腰の上ぐらいまであったかなー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
マスター 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
僕 「マスター、その娘、知ってんの?」
マスター 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
僕 「なー、マスターの知ってる娘か?」
マスター 「・・・・・・・・・・・・・実はな、・・・・・君がこのビルに引っ越してくる2年ぐらい前のことやけど、君の居るフロアーの突き当たりの部屋、
今は物置になってる部屋な、もともとは入居者が居てたんや。恋人同士で、デザイン事務所をはじめたばっかりでな、そりゃー、仲良かったわ。
さやけど、彼氏の方が、男前でなー、ヨーもてたんや。とうとう、彼氏に別の彼女が出来てしもてなー、それからや、2人の仲が段段おかしーなっていったんは。
時々、事務所でも派手なケンカしとったわ。彼女が泣きながら帰っていくの、ヨー見たで。・・・・・・・・かわいそーやったわ。
よっぽど思いつめたんやろなー
その娘、とうとう事務所の窓から、下に飛び降りて死んだんや。
彼氏の方もよっぽどショックやったんやろなー。ほどなくビルから出て行ったわ。
それ以来や、あの部屋が物置代わりになったんは。
そのときの娘にそっくりなんや。・・・・・・・・・・・・・・・君の話しの娘。」
僕の感違いと言ってしまえばそれまでなんですが、しかし、僕にはどーしても感違いをしたとは思えないし、
考えれば考えるほど不思議な気持ちになります。
皆さんにもありませんか?どー考えても奇妙な話し。不思議な話しの体験が。
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