僕は自営業者なので毎日、電車に乗るわけではありません。
毎日、朝早くからの通勤ラッシュにもまれて、会社に通う、
僕には絶対できないことです。彼ら、彼女らを、それだけで、心から尊敬しています。
しかし、電車に乗るというのも、ある程度の慣れ、というものが必要です。
たまに、電車に乗った日など、
まず、チラッと前の席の人を見ます。
前の人もこちらを見ているのに気がつきます。
チラッと視線を合わし、すぐに視線をそらします。 ここからが、電車の熟練者と素人の違いが出てきます。
熟練者は、チラッと視線を合わし、そらした後、おもむろに、鞄などから新聞あるいは文庫本、あるいは漫画本などを取り出し、
自分の世界に没頭していきます。不幸にして、なにも持っていないときは、座るやいなや、腕組みをしたりなどして、眠りについたりします。
その行動は実に自然です。
素人はこうはうまくいきません。
まず、チラッと視線を合わし、そらすまでは同じです。
その後、まだ、見られているのではないかと気になり、また、相手の方を見たりします。
その相手が、女性だったりしたら、視線があっただけで、(この人、イヤラシー)などと、思われたのではないかと、気になったりもします。
(いや、あなたを見ているのではないんです。)といわんばかりに、視線を女性の頭、右上方の窓の景色に移しますが、ただのポーズです。
本当は前の女性に「僕は貴方をいやらしい目で見ているんではないですよ。」という言外のアピールです。
でも、そのうち、このまま視線を窓の外に固定しているのも不自然だろうと、おもむろに視線を動かしたりします。
その視野に、女性の膝小僧が目に入ります。あわてて、視線をそらしますが、(ひょっとして、今、僕が膝小僧の方に視線をやったのを気づかれて(やっぱり、この人ヤラシー)
などと思われていないかと不安になり、上目遣いに女性の顔を見たりします。
また、誰か周りの人が僕の視線に気がついていて、(こいつ、女の膝小僧をのぞいて、スケベーな奴やなー)と、思われていないかとも気になります。
おそるおそる周りを窺います。
もう、この辺で端から見ても挙動不審者です。
もう、視線をどこにやったら良いのか分からなくなり、仕方がないので眠くもないのに目をつぶります。
目をつぶっていると、(ひょっとしたら目を開けたときに、前の女性や周りの人たちが変態扱いで僕のことを見ているんじゃないか?)と気になりだし、
また、ひょっとして、(俺のズボンのチャック開いてないか?トイレに行ったときにちゃんと閉めたかな?)とか気になりだし
時折、少し薄目で周りの様子をうかがったり、自分の股間を確認したりします。
すべて、確認し終えたら、再び、目を閉じるのですが、こんどは、ひょっとして、(前に年寄りの爺さん、婆さんが立っているんじゃないか?)
とか、気になったりします。もし、立っていれば、(席を譲るのが嫌で、寝たふりをしている)と思われてるんじゃないかとか思って、
また、うっすら目を開けて確認したりします。
そんなこんなで、駅に着く頃には精神的にヘトヘトになっています。
車内での行動についての考察
1.席に座ると、周り(特に前方)の人と視線を合わせる
これは「相手の観察と自己の存在のアピール。」を意味します。
座った場所は、とりあえずは目的地に着くまでは自分の縄張り、もしくは自分の居住区になります。
近隣近所に変な奴はいないか?酔っぱらいなど、からんできそうな奴はいないか?と瞬時に観察します。
そして、視線を合わせることによって、(これは、挨拶の代わりにもなります。)
お互いがお互いを瞬間に観察し合うのです。まさか、「このたび、となり、(もしくは前の)席に座ることになりました、私、なにがしなに某です。短い間では御座いますがなにとぞよろしくお願いします」
などと、いちいち挨拶するわけにも行きません。
瞬間に目を合わせることによって、また、その時の目の動き等によって、挨拶の代わりとなるのです。
お互いがお互いをその瞬時の視線の交差で観察し合うのです。
もし、あなたが相手にとって、関わりたくない相手なら、目を合わした瞬間、相手は2〜3度、瞬きをし、そして、あわてて、寝たふりをするでしょう。
もし、貴方が受けいられたなら、相手の人は、瞬間、目を合わし、その後、穏やかに、緩やかに、視線をそらすでしょう。
2.車内で、新聞、あるいは本を読む、もしくは眠る。
通勤電車では皆、ほとんど全員が、行く先は自分のつとめる会社です。(出来得るなら、休みたい。しかし、給料のために嫌々行く、)といった気持ちの人たちが多勢乗り合わせているのです。
心が弾むはずがありません。
これから先の長い一日間、給料のために会社にこき使われに行くのです。
せめて、会社にはいるまでは、自由な時間でいたい。 そういった心の叫びの現れです。
どうか、みなさん、車内で漫画を読みふける中年男性を見かけたりしても馬鹿にしたりしないでください。
彼らは、これから先の一日を家族を養うため、子供の学費を払うため、女房のテニスの教習費を払うため、一日、身を粉にし、
上司に嫌みをいわれ、一杯280円の牛丼で昼を済ませ、夜まで働かなければならないのですから。車内で漫画本を読むぐらい許されても罰は当たりません。
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