石柱の歌 詩 立原道造
(Ⅰ) 私は石の柱…… 崩れた家の 台座を踏んで
自らの重みを ささへるきりの
私は一本の石の柱だ?? 乾いた……
風とも 鳥とも 花とも かかはりなく
私は 立つてゐる
自らのかげが地に
投げる時間に見入りながら
(Ⅱ) 歴史もなく 悔いも 愛もなく
灰色のくらい景色のなかにひとりぼつちに
立つてゐるとき おもひはもう言葉にならない
花模様のついた会話と 幼い痛みと
よく笑つた歌ひ手と…… それを ときどき おもひ出す
風のやうに 過ぎて行つた あれは
私の記憶だらうか また日々だらうか
(Ⅲ) 私は おきわすられた ただ一本の柱だ
さうして 何の 廃墟に 名前なく
かうして 立つてゐる 私は 柱なのか
答へもなしに あらはに 外の光に?
嘗ての日よりも 踏みしめて
強く立たうとする私には ささへようとするなにがあるのか!
知らない…… 甘い夢の誘ひと潤沢な眠りに縁取られた薄明のほかは??
解説 「石柱の歌」は立原道造が23歳の時の作品です。
私にとって、この詩を合唱曲にするには少し長めの作品でした。
そのため、勝手ながら作品全体を3部構成の組曲として書き上げました。
1部~3部まで通して演奏するのが最良ですが、抜粋して演奏しても
可能な曲のスタイルとしています。10代から親しんだこの詩人の作品は、
すでに数曲を合唱作品として書いていますが、彼の建築家としての
考え方がよく反映された作品であり、私が今まで取り上げた
彼の作品の中では少し趣が違っているように感じられます。
この作品は第35回TIAA全日本作曲家コンクールで入選となった曲です。
2023年 春