KMC History特集:ドン・ホセ

1. 概要

大学 58回62回 で演奏されている「ドン・ホセ」について調べています。この曲は現在はアコーディオンのレパートリーとして残っているようです。
現状、メロディーは確定し、スペイン民謡か、Feret/Goldberg作曲か、Charrosin作曲かという点で停滞しています。 タイトルは日本で勝手につけたという可能性もあります。

2. 調査

時系列でみると、日本においては、どうやら先にマンドリン、後にアコーディオンで演奏されているらしい。 ただし、恐らくアコーディオンが先で、レコードとして日本に入ってきたものを編曲したのではないかと思う。

マンドリン系

菊池清麿さん 古賀政男と明治大学マンドリン倶楽部
昭和六年十一月一日、記念館講堂において前夜の興奮も冷めないうちに、
古賀政男が率いる明治大学マンドリン倶楽部は、復興記念式典の余興に出演する。
明大マンドリン倶楽部の演奏は、古賀政男の指揮で《明治大学校歌》で開幕した。
つづいて《ドンホセ》、《青い小鳥》、《帰れソレント》と続き、最後に《丘を越えて》が演奏された。
所沢マンドリンクラブさん 譜面の資料室
ドン・ホセ G.A.Feret

アコーディオン系

Henri Momboisseのレコード
次のようなレコード(Columbia (106369) A [BIEM] J 1729)を入手した。アコーディオンがメロディー、バンジョーが伴奏である。 盤面には次のように記載されている。
DON JOSE, PASO DOBLE
(Goldberg and Feret)
ACCORDEON SOLO by
HENRI MOMBOISSE
With Banjo
QuindemboさんのReview 再発見・ニッポンの音/芸[10]洋楽ポップスの系譜
ディックは、戦時中、国籍の問題で苦労していたベティ稲田やバッキー白片の面倒をよくみた。
昭和14年(1939)のディックとベティの満州巡業に同行したアコーディオンの名手、小泉幸雄もかれの世話になった一人。
昭和10年(1940)発売の「ドン・ホセ」は、小泉のアコーディオンと宇川隆三のギターとのデュエット。
スペインのパソドブレ調の軽快で歯切れのよい演奏は古さを感じさせない。
→このCDが図書館にあった。(2011年7月追記)
再発見・ニッポンの音/芸 [10] 洋楽ポップスの系譜 (TECR20180)
[9] ドン・ホセ Don José F.G.Charrosin曲   2.52
小泉幸雄 アコーディオン   ギター=宇川隆三

アーティスト紹介
[9] 小泉幸雄
戦前の日本を代表するアコーディオン演奏者。大正2年(1913)生れ。 東洋音楽学校でピアノを習得、アコに転じて主にダンスホールのタンゴ・バンドなどで活躍。 ジャズも含む多様な音楽に挑戦しさまざまなレコードを残す。 昭和10年11月発売の「ドン・ホセ」は宇川隆三のギターとのデュエット。 曲はスペインのパソ・ドブレもしくはワン・ステップの感じで、軽快なトゥービート調。 よくリズム感をつかんだ演奏で、昭和初めのものとは思えない。
テイチク45周年記念盤 SP原盤による日本ジャズ・ポピュラーの歩み
> (アコーディオン独奏)小泉幸雄、(ギター伴奏)宇川隆三/ドン・ホセ
> テイチク・タンゴ・トリオ(アコーディオン=小泉幸雄/ヴァイオリン=吉野章/ギター=吉田末男)/ジプシーの嘆き
→こちらは入手不能。
小金芳弘さんの昭和13年から現代までの日記 1942年(昭和17年)10月2日(金)
> 帰りにレコード「ドン・ホセ」を買う。素晴らしく血を沸かせる。これからアコーディオンの練習だ。
NAC 第九回定期演奏會プログラム
> 昭和25年11月10日(金)午後5時
> 五、アコーデオン独奏
>  A、ドンホセ、エスカミリオ      水谷和夫
アコーディオン弾きkibanaさんのブログAccordion kibana !
> アコーディオン愛好家には、おじさまが多い。
> おじさま連が大喜びだったのが「ドン・ホセ」「イスパニア・カーニー」
桜の下の音楽会
> プログラム3 中村一さん ・・・ アコーディオン演奏
> ・ドンホセ(カルメン)
札幌手風琴倶楽部 HAA(北海道アコーディオン協会)30周年記念コンサート
> 「ドンホセ」「エルチョクロ」「リベルタンゴ」
酔い日は良い日の日記
> 村井しげる・アコーディオン演奏会
> 第一部はメドレーで、ドンホセ、東京ラプソディー、ラメチャンタラ、・・・
堀部アコーディオン教室指導曲集(No.1~No.10)
No.2 (12) エスカミリオ(G.Goldberg&Ch.Feret)
No.4 (4) ドン・ホセ

ダンス系

mora win内「ダンス・ミュージック・シリーズ(3) 奥田宗宏<ラテン編/ジルバ・パソドブレ>」
> ドン・ホセ  奥田宗宏とブルースカイ・オーケストラ
→★視聴できる

ハーモニカ系

「岩崎重昭ハーモニカ編曲集1」(全日本ハーモニカ連盟/オンキョウパブリッシュ)
> ドン・ホセ(Paso doble/スペイン民謡/岩崎重昭 編曲)
> 軽快で楽しいスペイン民謡です。アコーディオンのメロディーと、
> バンジョーの伴奏で演奏されたレコードが大変たのしく、リズミカルで、有名になりました。

JASRAC登録

作品コードタイトル作曲アーティスト名
0D0-2630-6DON JOSECHARROSIN, FREDERICK GEORGE-
0D1-3338-2DON JOSEGOLDBERG, ISAAC
FERET, CHARLES LEON
-
0D6-1868-8DON JOSEOSTIZ, ESPILA MARIA DOLORES-
0Q6-4884-1DON JOSEDONATO, EDGARDO
ZERRILLO, ROBERTO (RA)
-
0T6-1285-6DON JOSETRADITIONAL横森 良造

一番上の"CHARROSIN"はアーティスト名登録がないが、実際のところ小泉幸雄氏のレコードによる登録であろう。
「横森 良造」氏は有名なアコーディオン奏者である。

Goldberg&Féret

「GOLDBERG」と「FERET」はマンドリン曲にも名前が出てくるフランスの作曲家(ただしGoldbergに関しては、本当のファーストネームがGeorgesであれば、という条件付き)。
フィオレンティーノ・マンドリン資料編によると、 Georges GoldbergとCharles Féretは "Czardas" で有名な Vittorio Monti と組んでいた「モンティ・グループ」なんだそうである。

Escamillo

彼らの作品に「Escamillo」というカルメン絡みという点で関連する曲がある(これはドン・ホセに関してはどちらに転ぶかわからない情報である・・・)。 ちなみに「Escamillo」のメロディーはUeno's MIDI Roomで聴くことができた。

マンドリンの音の博物館SPリスト にレコード情報あり。
演奏:Orchestre a Plectre de Paris、発売:S07.07、曲名:Escamillo、曲種:Paso-doble、作曲:G. Goldberg & Ch. Feret、レコード情報:N300493A,J1371、レコード会社:コロムビア

Andre Verchurenのアルバム「TANGO」の2曲目に「Escamillo」(Instrumental - Paso Doble) があり、「Charles Leon Feret, Isaac Goldberg」とある。 JASRAC登録に同じ組み合わせのものがある。

Don Diegue

彼らの作品に「Don Diegue」という曲がある。 アコーディオン:Paul Labiche、バンジョー:Charles Ferret、ピアノ:Draghi で演奏されているものが収録されたCD「Accordeon Vol. 2: Musette / Swing / Paris 1925-1942」がある。

F. G. Charrosin

Frederick George Charrosin (1910-1976, UK) [sv] [The Robert Farnon Society] [classical.com] [Zinfonia]

[The Robert Farnon Society]には作品名が列挙されているのだが、 その中に"Don Jose"はない。その代わりに "pasodoble Don Carlos" がある・・・絶妙な繋がらなさが恐ろしい。 楽譜が購入できそうだが、そこまでする気にはなれない。

"Snow-Flakes", "Keep Moving" 等はCDに収録されているようだ。

3. 曲の確定

アコーディオン系、ダンス系で挙げた情報のメロディーと、ハーモニカ系に挙げた情報の楽譜が一致した。 これにより、少なくとも日本において「ドン・ホセ」として認識されている各曲は同一であることと、曲の内容が確定した。

しかしパソドブレで「Don Jose」という名前の曲は他のメロディーのものが見つかる(例:My Blackpool - Now & Then Vol.2)。 ベネズエラのフォルクローレもヒットするが、明らかに異なるもの。

「ドン・ホセ」という人物名は、プロスペル・メリメの小説「カルメン」(1845年) に関連するもの以外見つからないので、この曲の題名もそれであるといってよいと思う。

4. 作曲者の調査

もうこの後に及んでスペイン民謡ということはないと思う。
そしてCharrosinなのかGoldberg&Feretなのかということになるが、 これは一方が正解(=作曲者)で、他方は編曲者か演奏者なのだと思う。
オペラなどではない劇場作品(レヴューとか)でカルメンを題材に採り上げて、その中にこの曲があったのでは?などと想像するのである。