平成13年(行ウ)第14号 公文書不開示処分取消請求事件
原 告   永瀬 英一
被 告   阿見町長 川田 弘二
原告準備書面(6)
平成14年9月1日
水戸地方裁判所民事第2部合議B係 御中
原 告 永瀬 英一


被告は,今回,あらたに条例7条7号を本件不開示処分の根拠として掲げる。
すなわち,これまでは主に立入検査の相手方,すなわち行政作用の客体である第三者の立場に事寄せたかのごとき主張であったのに対して,今回(準備書面4)は,行政作用の主体から見た立場においての主張と受けとれる。
原告は,これに対する反論を以下に述べる。
それについては,主体である実施機関と,客体,つまり第三者である立入検査の相手方との関係を見なければならない。

第1
 条例では,第三者保護に関する手続として,
(第三者保護に関する手続)
第16条 公開請求に係る公文書に町,国,他の地方公共団体及び公開請求者以外の者(以下この条第21条及び第22条において「第三者」という。)に関する情報が記録されているときは,実施機関は,公開決定等をするに当たって,当該情報に係る第三者に対し,公開請求に係る公文書の表示その他規則で定める事項を通知して,意見書を提出する機会を与えることができる。

2 実施機関は,次の各号のいずれかに該当するときは,第12条第1項の決定(以下「公開決定」という。)に先立ち,第三者に対し,意見書を提出する機会を与えなければならない。ただし,当該第三者の所在が判明しない場合は,この限りでない。
(1) 第三者に関する情報が記録されている公文書を公開しようとする場合であって,当該情報が第7条第2号イ,同条第3号ただし書に規定する情報に該当すると認められるとき。
(2) 第三者に関する情報が記録されている公文書を第10条の規定により公開しようとするとき。

3 実施機関は,前2項の規定により意見書の提出の機会を与えられた第三者がその公文書を公開することに反対の意思表示をした意見書を提出した場合において,公開決定をするときは,公開決定の日と公開を実施する日との間に少なくとも2週間を置かなければならない。この場合において,実施機関は,公開決定後直ちにその意見(第20条及び第21条において「反対意見書」という。)を述べた第三者に対し,公開決定をした旨及びその理由並びに公開を実施する日を書面により通知しなければならない。
と定めている。
このことを逆にいえば,
(1) 個人に関する情報であって,「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」
(2) 法人その他の団体に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,「人の生命,健康。生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」
(3) 第三者情報を含む7条2号以下各号に掲げる情報であって公益上特に公開の必要性のあるもの,
を公開しようとするときには,まず,当該第三者から意見書を徴し,そして公開を決定したら,直ちに当該第三者に対してその旨を告げ,公開日を通知する義務があるということになる。

第2
 阿見町火災予防査察等に関する規程(平成11年3月30日規程第2号)には,次のとおり定めている。
阿見町火災予防査察等に関する規程(平成11年3月30日規程第2号)抜粋
第1章 総則
(趣旨)
第1条 この規程は,消防法(昭和23年法律第186号。以下「法」という。)及び阿見町火災予防条例(昭和37年阿見町条例第1号。以下「条例」という。)に規定する火災予防の事務処理並びに法,条例に規定する火災予防に関する違反(以下「違反」という。)の処理について必要な事項を定める。
(用語の意義)
第2条 この規程における用語の意義は,次の各号に定めるところによる。
(1)〜(3) 略
(4) 「査察」とは,次のア及びイに掲げる行為をいう。
ア 消防対象物(法第2条第3項に規定する消防対象物をいう。以下同じ。)に立ち入り,その位置,構造,設備及び管理の状況を検査し,当該対象物の関係者に対して不備欠陥事項等の是正及び火災予防上適切な指導を行うこと。
イ 消防対象物が集合する地域の地形,道路及び消防対象物の形態等について調査し,当該地域の居住者及び関係者に対して火災予防上必要な指示,指導を行うこと。
(5) (以下略)            (甲33号証)
 すなわち,本件公開請求に係る立入検査記録,立入検査結果通知書,ならびに改修(計画)報告書等は上記査察に伴い作成されるものであって,まさに,「人の生命,健康。生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」そのものであるといえる。
被告が本法廷に,乙2号証乃至乙6号証で条例16条2項の意見書を提出していることからも,少なくとも本件情報が「人の生命,健康。生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」にあたる可能性が高いことの認識を有していたことは確実である。

第3
 原告が, 情報公開審査会に対して,本件に関する意見書又は資料の閲覧請求(甲24号証)を行ったことへの回答によれば,平成12年度防火対象物立入検査実施数は,190件である(甲24-2号証)。
 立入検査実施数190件中,公開に否定的な意見書が5件のみ。爾余の185件についても条例16条3項による意見を徴する義務があったはずであるが,その意見はどうであったのか,意見を徴したかどうかも含め,被告はなんの説明もしていない。
190分の5という数字が果たして立入検査拒否につながる高度な蓋然性を有しているといえるであろうか。
残りの185件は公開を可とする意見であったかもしれないではないか。
被告は,イメージダウンを理由とする趣旨の公開反対意見書しか提出していないが,その逆に,イメージアップのため,いわゆるマル適マーク(阿見町防火基準適合表示)の交付を期待して,すすんで立入検査を受け,指導に従う相手方のほうが多いということさえ考えられるではないか。
 条例16条3項が,反対意見を表明した第三者に,公開決定に関する事項を書面により通知しなければならないとするのは,当該第三者のために争訟の機会を確保する趣旨から出ているものである(手引72ページ中段の解釈)。
しかし,本件において,いかなる形においても,これまで公開を拒む趣旨の争訟が起こされたことは聞かない。

第4
 被告は,条例7条7号該当性を主張する。
同号の定めるところは,
(7) 実施機関又は国等の機関が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
ア 監査,検査,取締り又は試験に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にすると認められるもの
イ 以下略
であり,被告は,公開することにより,実施機関と相手方との信頼関係が損なわれ,関係者の理解・協力が得られなくなるおそれがある情報として,本件立入検査結果記録等を挙げる。
しかし,消防職員はほんとうに本件情報の公開によって「正確な事実の把握が困難になり,又は違法若しくは不当な行為が容易になり,若しくはその発見が困難になる」と思っているのだろうか。
もしそうであるとするならば,住民の信託を背に,広範な権限を与えられている消防職員として,その職責に悖ること甚だしいといわねばならない。
 同号の解釈として,手引53,54ページに,
2. 「適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」に該当するか否かは,公開することによる利益と実施機関等が行う事務又は事業の適正な遂行を確保することによる利益との比較衡量により判断するが,「支障」の程度は名目的なものでは足りず,実質的なものであることが必要である。また,「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性ではなく法的保護に値する蓋然性が要求されるものである。
1. 監査,交渉,試験その他同種のものが反復されるような性質の事務又は事業にあっては,ある個別の事務又は事業に関する情報を公開すると,将来の同種の事務又は事業の適正な遂行に支障が生ずることがある場合には「当該事務又は事業の。適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」に該当する。
而して,
2. 実施機関等が行うすべての事務を対象とし,包括的に規定したものであることから,本号の適用に当たっては,原則公開の趣旨を踏まえ,公開することにより生ずる事務又は事業への支障については,いたずらに拡大して解釈することのないようにしなければならない。
と,拡大解釈を戒め,また,運用についても,
事務事業の実施目的を失わせるおそれや公正かつ円滑な執行を妨げるおそれがあることが明らかであるかどうかは,客観的な要素で判断するのであって,本号に例示した事務事業であることをもって,安易に事業執行に関する情報として非公開とすることのないよう運用しなければならない。
とあるのも,当然すぎるほど当然であって,このことは甲27号証で示した公文書非開示決定取消請求控訴判決(東京高裁平成元年(行コ)120号)をはじめとする
幾多の判例でも詳細に判示しているところである。
もしも,町の事務事業のすべてが条例7条7号により不開示とされるなら,町の行政情報はすべて同号で一括りにされることになり,他の条項を設けていることの意味がなくなってしまう。原則公開を定めた条例の基本理念は烏有に帰してしまうのである。

結語
既述のごとく,被告はその主張するすべてについて,不開示とするに足る有効な立証をなし得ていないのであるから,本件不開示処分は速やかに取り消されるべきである。
きょう,9月1日は,死者44人という痛ましい犠牲者を出したあの新宿歌舞伎町の事件から1年にあたる。紙上伝えられるところによれば,事件後の一斉点検で設備等の不備で指摘を受けた雑居ビルについて,未だ是正がなされていないところが相当の割合にのぼるとのことである。消防機関がいくら努力しても,人々をその生命,健康,財産に対する危険から守るにはほど遠い現実がそこにはある。
原告は,ここに謹んで死者の冥福を祈るとともに,いまの時代,行政に頼るだけでは我が身ひとつも守れない状況であることを思い,市民が積極的に情報公開制度のなかで自らの周辺の危険を察知することの重要性を切に思うのである。