平成13年(行ウ)第14号 公文書不開示処分取消請求事件
原  告   永 瀬 英 一
被  告   阿 見 町 長 川 田 弘 二
被告準備書面(2)

平成14年 1月18日
水戸地方裁判所民事第2部合議B係 御中
       被告訴訟代理人弁護士     星     野     学


(情報公開事務の手引き(甲6号証の1)における例示と消防法4条の関係)
第1 問題の所在
 消防法4条6項は「消防職員は,第1項の規定により関係のある場所に立ち入
つて検査又は質問を行った場合に知り得た関係者の秘密をみだりに他に漏らして
はならない」と定め,本件不開示情報は条例7条1号の法令秘として非公開情報
に該当し不開示が許される。
 他方,情報公開事務の手引き(以下,単に「手引き」という。)においては,
条例7条3号但書の例として「立入検査結果の改善勧告,命令書その他行政処分
のうちこれらに該当するもの」をあげており,本件不開示情報が7条3号但書に
より開示を要求しているように読める。
 そこで,両者の関係が問題となる。
 以下詳述する。
 手引きの法規範性ないし法的拘束力
 まず,手引きにおいて「立入検査結果の改善勧告」を開示すべき情報の一例と
してあげているが,そのような手引きの記載の存在から直ちに本件不開示情報の
不開示処分が違法となるものではない。
 理由は以下のとおりである。
 確かに手引きは阿見町により作成され,条例の解釈・運用を説明した文書であ
る。
 しかしながら,あくまで手引きは条例の解釈・運用の指針として阿見町が作成
したもので条例とは別個のものにすぎず,町議会の審議及び裁決などいわゆる立
法過程を経ていない以上,手引きの記載が法規範性ないし法的拘束力を取得する
ことはないから,手引きの記載の存存を理由に本件不開示情報の不開示処分が違
法であると主張するのは失当である。
 また,法規範性ないし法的拘束力を有するのは条例それ自体であるから,条例
の解釈にあたっては,一次的には条例の文言を日常用語例に従いこれを素直に解
釈すべきである。
 そして,条例7条1号により法令秘が非公開情報とされ,本件不開示情報が消
防法4条6項により法令秘とされる以上,手引きに法規範性ないし法的拘束力が
認められないことからすると手引きの記載の如何に関わらず本件不開示情報が条
例7条l項の法令秘として非公開情報に該当し不開示とされたことに違法はな
い。
 もっとも,仮に本件不開示情報が消防法4条6項により法令秘に該当するか否
かという消防法及び条例の解釈・運用に疑義が生じるとしても,それらの解釈・
運用が不明確な場合には,一定程度行政の裁量が認められるものの,解釈・運用
の最終的判断は司法に委ねられており,既に述べたとおり手引きの記載に法規範
性ないし法的拘束力が認められない以上,手引きの記載が消防法及び条例の解釈

由に本件不開示情報の不開示処分が違法であると主張するのはやはり失当といわ
ざるを得ない。
 情報公開の手引きにあげる例示と消防法4条との関係
 次に,手引きは,条例7条3号但書に基づき公開すべき情報の例として「立入
検査結果の改善勧告,命令書その他行政処分のうちこれらに該当するもの」をあ
げているが,仮に,本件不開示情報が右「立入検査の結果の改善勧告」に該当す
るとしても,なお本件不開示情報の不開示処分に違法はない。
 理由は以下のとおりである。
 すなわち,確かに,条例7条3号は「法人その他の団体に関する情報又は事業
を営む個人の当該事業に関する情報」を原則非開示情報と定め,但書において「人
の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認め
られる情報」を公開することを要求している。
 そして,手引きは但書により開示が要求される例として「立入検査結果の改善
勧告」をあげている。
 しかしながら,条例の構成上,あくまで立入検査結果の改善勧告は法人等に関
する情報を非開示情報と定めた条例7条3号の但書であり,法令秘を非開示情報
と定めた条例7条1号には例外的に情報の公開を定めた但書は存在しないから,
本件不開示情報が消防法4条6項により法令秘に該当する以上,そもそも本件不
開示情報については条例7条3号但書が適用されないから,手引きに「立入検査
の結果の改善勧告」が公開すべき情報の一例としてあげられているとしても,手
引きの記載の存在を理由に本件不開示情報の不開示処分が違法であると主張する
のは失当といわざるを得ない。
 もっとも,原告は,消防法4条6項について同法に固有の罰則規定がないこと
などを理由に消防職員に向けられた服務規律的規定として法令秘には該当しない
と主張する。
 しかし,消防職員に対しては地方公務員法34条1項及び2項において守秘義
務が課され,守秘義務の違反については同法60条2号により罰則が定められて
いるから,消防職員の守秘義務違反に対する罰則規定は存在しており,守秘義務
違反に対する法的効果は当該法規固有の罰則規定がある場合と同一であるから,
単に消防法固有の罰則規定があるか否かという基準をもって当該守秘義務が法令
秘に該当するか否かの基準とすることはできない。
 むしろ,原告が甲第17号証で例示した法令において当該法令固有の罰則規定
が定められているのは,秘密漏泄の主体が地方公務員に限定されないことから,
地方公務員法による守秘義務が及ばないとして当該法令固有の罰則規定を定めた
にすぎない。
 なお,本件不開示情報が条例7条3号但書の「人の生命,健康,生活又は財産
を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」に該当しないこ
とについては被告準備書面(1)において主張済みである。
                                  以上