平成13年(行ウ)第14号 公文書不開示処分取消請求事件
原  告  永瀬英一
被  告  阿見町長川田弘二

被告準備書面(3)
平成14年 7月29日
水戸地方裁判所民事第2部合議B係 御中
   原告訴訟代理人弁護士   星   野   学
被告は,以下のとおり従前の主張について補完ないし明確化する。

第1 結論
本件不開示情報は,条例7条3号ア及びイ並びに4号において開示すべき義務を負わない事項にそれぞれ該当するので,本件不開示情報を不開示とした被告の
処分に違法はない。

第2 条例7条3号ア
 1 問題の所在と結論
法人その他の団体(以下,単に「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,公にすることにより,当該法人等又は当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるものは,それが人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報を除いて,開示する法的義務はない(条例7条3号ア)。
そして,本件立ち入り検査の相手方が上記法人等又は事業を営む個人に関する情報に該当することは問題がない。
また,本件不開示情報が人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められた情報に該当しないことは,被告準備書面(1)において記載した理由から,明らかである。
そして,本件不開示情報は,以下の理由からこれを公にすることにより当該法人等又は当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるものに該当し,したがって,本件不開示情報を不開示とした被告の処分に違法はない。
2 理由
本件不開示情報は,立ち入り検査の結果であるところ,立ち入り検査結果が公表されその内容次第では集客に支障を来すことが予想され,あるいは,防火設備の不十分さなどが当該法人等及び個人の一般的信用を失わせ,さらには,防火設備の不十分さが防火設備の充実を図れない経済状態にあるという経済的信用をも失わせる虞がある。
したがって,本件立ち入り検査の結果は,当該法人等及び当該個人の信用に関する情報であり,これを公にすることによって当該法人等又は当該個人の正当な利益を害すると認められる。

第3 条例7条3号イ
 1 問題の所在と結論
法人その他の団体(以下,単に「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,実施機関の要請を受けて,公にしないとの条件で任意に提供された情報であって,当該条件を付することが当該情報の性質,当時の状況等に照らして合理的で認められるものは,それが人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報を除いて,開示する法的義務はない(条例7条3号イ)
そして,本件立ち入り検査の結果が上記法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報に該当することは問題がない。
また,本件不開示情報が人の生命,健康、生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報に該当しないことは,被告準備書面(1)において記載した理由から,明らかである。
そして,本件不開示情報は,以下の理由から実施機関の要請を受けて公にしないとの条件で任意に提供された情報であって当該条件を付することが当該情報の性質,当時の状況等に照らして合理的で認められるものに該当し,したがって,本件不開示情報を不開示とした被告の処分に違法はない。
2 理由
消防法に基づく立ち入り検査の結果については,従来これが第三者に公表されることはなかった。
したがって,立ち入り検査の実施者において検査結果が公表されることを立ち入り検査の相手方に告知した事実は存在せず,立ち入り検査の相手方において検査結果が公表されることを承諾して立ち入り検査に応じた事実も存在しない。
また,本件立ち入り検査の結果は,平成12年度内に実施された立ち入り検査の結果であるから,立ち入り検査実施時点では情報公開条例が施行されておらず,したがって,立ち入り検査の相手方において検査結果が何らかの形で公表されることを予想することすら出来なかった。
そして,立ち入り検査の相手方は,本件訴訟において検査結果を公開するとした場合今後の立ち入り検査に協力できない旨回答しているものがあることからも明らかなとおり,立ち入り検査の結果を公にしないことを条件に立ち入り検査に応じ,また立ち入り検査の性質上検査の相手方の任意の協力が実際上不可欠であることからすると公にしないことが条件であったことから任意に情報を提供していたものと認められる。
したがって,本件立ち入り検査の結果は,検査実施の時点では事実上公にしないことが条件で任意に提供された情報あるいはそのような情報を含むと評価すべきである。
よって,そのような性質を持つ本件不開示情報を不開示としたことは,条例7条3号イの規定から,違法の問題は生じない。

第4 条例7条4号
 1 結論
本件不開示情報を公開した場合,これを公にしたことにより,人の生命,身体,財産等の保護,犯罪の予防,犯罪の捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると認められる。
よって,本件不開示情報を不開示とした被告の処分は,条例7条4号の規定から違法の問題は生じない。
 2 理由
 (1)立ち入り検査の実施の実効性喪失
立入検査の結果が開示されるか否かは検査の相手方にとって重大な関心事であり,一旦立入検査の結果が開示された場合,それ以後立入検査の相手方において立入検査の結果開示を嫌って立入検査を拒否することが十分予想でき,その後の立ち入り検査の実施が困難となり,立ち入り検査の結果の公開がむしろ立ち入り検査結果の実効性を喪失させることについては,被告準備書面(1)第2−3において主張したとおりである。
よって,立ち入り検査の結果を公にすることにより,立ち入り検査の実効性が喪失し,むしろ従来立ち入り検査を実施することにより防止し得た火災及び二次被害を防止出来なくなったりするおそれがある。
したがって,本件不開示情報は,これを公にすることにより人の生命,身体,財産等の保護に支障を及ぼすと認められるから,被告は条例7条4号により本件不開示情報を公開すべき義務を負わない。 
 (2)不開示情報を公にすることの弊害
まず,条例に基づく情報の公開請求権者には特に限定がない(条例5条)。
したがって,本件立ち入り検査の結果を直ちに公開した場合には以下のような不都合が生じる。
すなわち,本件立ち入り検査の結果を公開すれば,立ち入り検査の相手方の中でいずれが防火設備等不十分であるか,また,その不十分さの程度を容易に知り得ることとなる。
その結果,仮に,放火により被害拡大を図ろうとする者にとっては放火の対象者を選定する資料となり兼ねない。
また,立ち入り検査の相手方に対して放火による危害を加えようとする者にとっては,いずれに放火すれば効果的であるか放火に適した場所を明らかにすることとなる。
さらに,中には,自らが稼働する場所の防火設備の不十分さを知りうる者に対しては放火を手段とした脅迫が効果的であると考え,防火設備の不十分な事業者の施設に対する放火を手段とした強盗事件を計画する者が現れかねず,その結果弘前市で発生したいわゆる武富士強盗殺人・放火事件のような犯行を模倣した犯行を招来しかねない。
したがって,本件不開示情報は,これを公にすることにより人の生命,身体,財産等の保護及び公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると認められるから,被告は条例7条4号により本件不開示情報を公開すべき義務を負わない。

第5 事情
陳述者山口守夫において陳述書を作成した経緯は,同人が立ち入り検査の責任者としてもっとも立ち入り検査の実情に通じているから同人が適任と判断したに他ならず,同人の上司が陳述書を作成しなかったことは,とりわけ上司において責任を回避する趣旨ではない。
以上