訴 状
平成13年8月9日
水戸地方裁判所民事部 御中
〒300−0332 茨城県稲敷郡阿見町中央 7−11−9
原 告 永瀬 英一
〒300−0332 茨城県稲敷郡阿見町中央 1−1−1
被 告 茨城県稲敷郡阿見町長 川田 弘二
公文書不開示処分取消請求事件
訴訟物の価額 金95万円
貼用印紙額 金8200円
第1 請求の趣旨
1.被告が、原告に対し、平成13年4月26日付で情報一部公開決定を行った「立入検査結果通知書(平成12年度分)、改修(計画)報告書(平成12年度分)及び平成12年防火対象物実態調査表」のうち、企業・氏名等を特定した部分について不開示とした処分を取り消す。
2.訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
第2 請求の原因
1. 当事者
(1) 原告は茨城県稲敷郡阿見町に居住する住民である。
(2) 被告は平成6年3月20日以降阿見町長の職にある者である
2. 原告の情報公開請求
原告は、被告に対し、「阿見町情報公開条例」(以下、単に「条例」という。)第2条第1項に基づき、平成13年4月5日、阿見町の防災体制を調査するため、請求の趣旨記載の文書の開示を請求した(甲第1号証)。
3. 一部公開決定及び原告の異議申し立て棄却
原告の情報公開請求に対し、被告は、平成13年4月26日付公文書部分公開決定通知書をもって、
立入検査結果通知書ならびに改修(計画)報告書中、関係者の秘密は消防法第4条第6項、第16条の5第3項、第34条第2項の規定により法令秘情報となるが氏名等を除き公開する。
として関係者の氏名等を除いて公開する旨の決定をした(甲第2号証)。
原告は、平成13年5月1日、これを不服として、被告に対し、行政不服審査法第14条第1項の規定に基づき、不服申立を行った(甲第3号証)。
4. 被告は、平成13年7月18日付決定書謄本をもって、原告の異議申し立てを棄却した(甲第4号証)。
決定の理由は要旨次のとおりである。
(1)「情報公開事務の手引き(以下、単に「手引き」という。)」記載の例示は、実施機関が公開するかどうかの判断をするための例示であるが、同手引きの『第7条第3号(法人等に関する情報)の「ただし書き」に該当する情報の例示』で、「防火対象物立入検査結果、危険物貯蔵等に関する情報」は、あきらかに法令秘情報であるのに、誤って例示されたものである。
(2)具体的事例に挙がった店舗の不備事項はすでに是正されている。
(3)請求理由及び情報の利用目的に「当町防災体制の実態を知りたいため」とあるが、企業名等がなくても指導内容はわかる。
(4)立入検査記録等が法令秘とされているのは、立入検査等の執行に当たっては関係者の協力が不可欠であり、関係者の氏名等を公開することが関係者との協力関係を損ない、消防法に基づく立入検査の執行を困難にする可能性が大であるからである。
第3 本件処分の違法性
被告が挙げた非開示の事由は本件文書には当てはまらず、不当、違法である。その理由は次のとおりである。
1.情報公開の原理・原則
阿見町情報公開条例(以下、単に「条例」という。)では、その前文に、
「町が保有する公文書は本来町民との共有財産です。それは、町民に開かれた町政を推進するため、積極的に公開されるべきものです。
町政をよりよく運営し、住みよいまちづくりを進めていくには、町民の理解と信頼を深めることが不可欠であります。我々は、このような開かれた町政を実現するためには、町民の「知る権利」が情報公開の制度化に大きな役割を果たしてきたことを十分認識し、情報の公開を一層進めていかなければなりません。
このような考え方に立って、地方自治の本旨に沿った住民自治の実現に向けて、町と住民が一体となり、21世紀にふさわしい情報公開制度確立のためこの条例を制定します。」
と宣言し、町の保有する公文書が町民との共有財産であること、これを積極的に公開することが町民の理解と信頼を得る上で必須であることを記している。
その上で、同第7条には、
「第7条 実施機関は、公開請求があったときは、公開請求に係る公文書に次の各号に掲げる場合を除き、公開請求者に対し、当該公文書を公開しなければならない」と記して、非公開情報が記録されている場合を除き、原則公開を義務づけている。
2. 本件情報の不開示事由非該当性
以下、被告が不開示の事由として主張するところに従い、被告所論が理由のないことを明らかにする。
(1)被告は、手引きの「第7条第3号(法人等に関する情報)のただし書きに該当する情報」の例示に、「防火対象物立入検査結果等に関する情報」と記載されているのは誤りである旨主張するが、町が情報公開条例を解釈運用する上での基準として掲げているものを誤りであるとするには、その根拠を明らかにすべきであるのに、被告はなんら根拠を示していない。
(2)被告は、具体的事例に挙がった店舗の不備事項はすでに是正されているというが、それが不開示の理由にはならない。原告は他にも同様事例があるとの疑いを抱いて、防災体制全体を検証しようとするものであるから、本件請求の端緒となった事例の改善のみをもって、本件請求の前提、根拠が失われたとするわけにはいかない。
(3)公文書公開請求書の「請求理由及び請求目的」欄の記入は、請求者の任意とされており、被告が、同欄の記入内容によって開示、不開示の判断をすることは許されない。
(4)被告は、消防法に基づく立入検査記録等を法令秘とする根拠として、消防法第4条第6項以下の規定があり、同規定を設けた主旨を「関係者の氏名等を公開することが関係者との協力関係を損ない、立入検査の執行を困難にする」からとするが、消防法第4条第6項は、「消防職員は、同法第4条第1項の規定により関係のある場所に立ち入って検査又は質問を行った場合に知り得た関係者の秘密をみだりに他に漏らしてはならない」と規定しているところ、被告は、情報公開条例に基づく原告の本件請求に応えることが「みだりに漏らす」ことに当たるかどうかの判断を示していない。
非開示情報の範囲は、公開を原則とする条例の本旨に照らし、必要最小限にとどめるとともに、可能な限り限定的かつ明確に定めるべきであって、消防法第4条第6項に「…みだりに他に漏らしてはならない」という注釈があることのみをもって、法令秘を主張するのはまったく当を失している。
宮城県塩竈市の「情報公開の手引き」や、本県龍ヶ崎市の「情報公開事務の手引き」にもそれぞれ、法令秘情報及び法人情報に関する規定がおかれており、かつ解釈運用基準が設けられているが、いずれも「法令秘情報に該当し、非公開と考えられる情報」の具体例として掲げる例示に、消防法を挙げている例はない。
むしろ、消防法第4条第6項の反対解釈として「正当な事由のある場合においてはこの限りでない」という結論すら導かれる可能性があること、また、実際の火災事故等に際しても消防職員からしばしば、事業者の防災設備義務違反等の発災原因が発表される事例があること等から、予防査察をもふくめ、公表もあるべしとして、龍ヶ崎・塩竈両市においては、解釈運用基準を定めるに当たり、法令秘情報の例示に含めなかったと考えるのが至当である。
原告が、阿見町情報公開条例の解釈運用基準において、法令秘情報に該当する情報の例示として、分類1から3に掲げる具体例の根拠法規16項目のすべてについて調べた結果でも、「…みだりに他に漏らしてはならない」という表現を使用しているのは、本件消防法の規定だけで、他はすべて、直罰規定を設けているか、「正当の理由なく…」との表現で情報漏泄を禁じていることからも、「…みだりに…」が「正当な事由なく」の意であり、本件が、如上述べたように正当な事由がある場合であって、法令秘には当たらないとする、原告の主張が正しいことを裏付けるものである。
一方、条例第7条の例外不開示にあたる場合として掲げる法人等情報(条例第7条第3号)には、そのただし書きに、「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる場合を除く」として、法人等の事業に関する情報であっても、人の生命、健康、生活又は財産を保護するためにはこれを公にすることもやむを得ないとして、公開を義務づけている。手引きでも、ただし書きに該当する情報とは「人の生命等に対する危害又は侵害の未然防止、拡大防止又は再発防止のため、公開することが必要であると認められる情報をいう」と解釈している。
本件の場合、消防職員が立入検査により知り得た情報は、同時に法人等事業情報でもあり、わが国の社会形態からいっても、消防法第4条の立入検査の大部分はこのような関係者を対象としている。
本件において、条例第7条第1号と条例第7条第3号とは、相反関係にあると言い得、しかも、この両条項の間に優越関係を認める根拠はない。
すでにして法令秘該当性を否定された以上、原告が公開を求めている本件情報は、結局、法人等事業情報に当たるものであって、条例第7条第3号ただし書きの規定により、被告は公開の義務を負うものである。
第4 結語
以上の通り、被告の主張する一部非公開とする根拠はまったく当を得ないものであって、阿見町情報公開条例の本旨に悖り、同第7条に違反した行為であることは明らかであるから、本件処分の取消を求めるため本訴を提起した次第である。
証拠方法
1.甲第1号証 公文書公開請求書(写し)
2.甲第2号証 公文書部分公開決定通知書(写し)
3.甲第3号証 情報公開に関する不服申立書(写し)
9.甲第4号証 決定書謄本(写し)
添付書類
1 訴状副本 1通
2 甲号証写し 各1通