KNIGHT AND SISTER2《騎士と乙女2》

第九章 謁見 12

「どういうこと?」
フィアは呟き、その場に固まった。フィルデールとイーゴリが、何か魔神にでも出会ったような顔をして、ものも言わずに逃げ出したことに茫然となったのだ。いや、イーゴリはそんな顔はしなかったが、それでも、フィルデールに促されるままに同様の行動をとったのはたしかだ。
自分の顔が何か変なのだろうかと、思わず頬に手をゃる。
そんなおそろしい形相をしていたつもりはない。金をくれと叫んだわけでも、もちろんないのに。なのになぜ彼らは自分から逃げたのだろう? まったくわけがわからず、フィアは不安にさいなまれた。自分に理解できない事態が起こっているとなると、不安にならずにはおれない。
しかし、その場で不安を感じていてもしょうがないので、歩き出すことにする。
正直いって疲れ果てていたが、そうは言っても、ひとりで城下には戻れない。
(おばさん、どこにいるんだろ……。早く一緒に帰りたいな……)
雲間に見え隠れする月の下、ぼんやり歩いた。
それからふと、フィアは、(でも、どこに?)と自らに問いかけた。
帰りたいといっても、それは帰る場所があるから帰れるのだ。
でも自分は? 自分に、どこに帰れる場所があるというのだ。
聖ドロテアには戻れない。副院長も『戻ってきてはいけない』と言った。自分だってそれに納得して、還俗したはずだ。今さら「今日泊まるところがなかったから、一晩だけ置いてください」とは言えない。みんながどんな顔をすることか……。合わせる顔がない。
とはいえおばを連れている。野宿するくらいなら、恥を掻き捨てて修道院の門を叩いたかもしれない。前なら孤児院があったから、どうしても修道院に戻れなければ、孤児院のほうにこっそり泊めてもらうことも可能だったかもしれないが……。
でも今はその孤児院もない。
火事のあと、あそこは更地になってしまったはずだ。
そういえば孤児院の責任者だったマルギットたちは、どうしているのだろう?
今ごろ聖イローナ女子修道院で、自分の独房に戻って休んでいるころだろうか。
思えば孤児院での毎日は楽しかった。『孤児院は嫌なところ』という自分の過去の思い出を払拭してくれるような、本当に楽しい毎日だった。子供たちと駆けっこをしたり、鬼ごっこをしたり、一緒にお菓子を焼いたり、それでお茶をしたり……。あの小さな女の子や男の子たちは、どうしているだろう。元気だろうか。慣れないところに強制的に移籍させられて、戸惑うことはなかったろうか。いつも自分が口を拭いてやっていた、内気な女の子のニーシャは、新しい環境にちゃんと馴染めているだろうか。
ああ、でも、マルギットたちが一緒なら心配ない。フィアはそう思った。彼女たちは万事ちゃんと心得ている。どうしたら子供たちをおとなしくさせられるかや、どうしたら早く寝かしつけられるかを。彼女たちの子守唄を聞いていると、子供たちの世話係のはずのフィアまでが、うとうとと頭を揺らしてしまうほどだった……。
フィアは考えごとに耽りながら歩き続けた。
謁見を終えて戻っていく人の姿も、もうまばらになってしまった。時折しか見ない。じきに謁見も終わるのだろう。
それにしても、思いのほか長い時間がかかるものだ。改めてそのことに驚き、感心もする。今日はあいにくヴィクターに会えなかったが、彼がずっと真面目に民の陳情を聞いていたと思えば、それも仕方がないと素直に思えた。
おばの姿はない。どこにも。
本当のところは、フィアも思わないではなかった。おばは自分を見限り、城下へおりてしまったのではないかと。謁見の列に並ぶということが、おばにはそれくらい我慢できないことのように思えたのかもしれないと。
フィアにしてみれば、そんなに驚き、恐れる必要のないことなのだが……。おばにとっては違ったのかもしれない。『衛兵に首を刎ねられる』などと言って心底怯えていたほどだ。衛兵は理由もなくそんなことをしないはずだが、おばは城とか、国王とか、そういうものと接したことがないから、どんなものか分からないのだろう。
フィアは歩くのをやめて、立ち止まった。こんなに夜遅くなってしまったのなら、かえって、思い切って謁見の間へ行ったほうがいいかもしれないと思ったのだ。衛兵に止められるのは分かっているが、大声でヴィクターの名でも連呼すれば、なんの騒ぎかと怪しんで、彼が出てきてくれるかも。
そうすればおばの問題も解決する。ヴィクターならおばを探すことなど造作ないだろう。なんといってもここは彼の城だし、使用人や騎士たちを総動員すれば、おばが見つからないはずがない。もし、まだここにいるなら。
(やっぱり、できないわ。そんなこと)
フィアはうなだれた。おばではないが、それこそ首を刎ねられてもおかしくない。
ヴィクターが出てきてくれたらいいが、衛兵だったら、間違いなく捕らえられて牢獄行きだ。寒くて臭くて、みじめな気持ちになる牢獄生活はもうごめんだった。自分は不思議と牢獄に縁があるが、だからといって好きなわけでは全然ない。
やがてフィアはまた足を止めた。
今度は、さっきとは違う理由でだ。
広場を、何人もの衛兵たちが剣呑な様子で突っ切っていく。彼らは走っていた。その手には──剣を提げている。弓を携えている者もいた。フィアは驚いてそれを見ていた。やがてそのフィアを、誰かが後ろから呼び止める。
「そこの娘。謁見希望者か?」
フィアは振り向き、声をかけた衛兵を見た。衛兵は松明を掲げ、妙に険しい顔をしていた。
「あ、いえ」
思わずそう言ってしまったが、「はい」と答えたほうが良かったかもしれない。なぜなら、口に出してしまった瞬間、衛兵の顔つきがいっそう険しくなったからだ。
「違うだと? では、こんなところで何をしている。使用人でもないようだが」
衛兵は近づいてきてフィアの腕を掴んだ。
「え、あの……」
フィアはびくりとしながらも、なんとか口を開く。説明しなくてはならなかった。
「たしかに、謁見の列には並ぼうと思ったんですけど。おばとはぐれてしまって」
「謁見希望者か」
衛兵はちっと舌打ちする。
ならば用はないとばかりに立ち去ろうとして、しかし彼はまた振り向いた。
じろじろとフィアを見る。
「怪しいな。本当に連れなどいるのか? ひとりで来たのではないのか」
フィアのほうはなぜ怪しまれるのかさっぱり分からなかった。
「ひとりじゃありません。本当に、おばと一緒に来たんです」
「そのおばとやらはどこにいる?」
「だから、はぐれてしまって……。探しているとこなんです」
「信じられんな。こちらも今、怪しい女を探しているところだが、それがおまえでないとなぜ言える?」
衛兵は自問自答するように呟いた。そして答えを出したらしい。
「ちょっと来い。不審な点があるから、調べさせてもらおう」
衛兵がフィアの腕をいっそう強く掴んだ。
しかしフィアはそこから動かなかった。衛兵が行きたがっている方向とは反対側へ行こうと、全身全霊で足を突っ張る。
「いやっ……! どうしてわたしが? 嘘なんかついてないのに!」
「嘘をついているかついていないかは、こちらが決めることだ。いいから来るんだ!」
衛兵のほうも強情に言う。
フィアはそれに全力で抵抗した。隙があれば衛兵の足を蹴ってやろうとしたほどだ。しかし、それはせずにすんだ。こちらに駆け寄ってきた人影が、「待て!」と鋭い声で叫んだからだ。


一瞬ヴィクターかと思ったが、よく見ればそれはイグナーツだった。
ヴィクターとは違い、短く刈り込まれた髪はほとんど揺れることがない。細い目の形も、茶色の瞳の色も、頬骨ががっしりとしている顔の輪郭も、実際にはさほどヴィクターとは似ていない。それでもぱっと見て勘違いしてしまうのは、どこか鋭い雰囲気が似ているせいだろう。やはり従兄だ。
「その娘はわたしの知り合いだ。離して貰いたい」
イグナーツは軽く息を切らしながら言い、フィアの前に立ちはだかる。衛兵はまだフィアの腕を掴んでいたが、割って入ったのがイグナーツだと認識すると、急に顔つきを変えた。
「イグナーツ=クラウザール卿」
その声には、現国王の従兄にあたる人物に対する畏敬の念が含まれている。
「あなたのお知り合いとは。知らず、ご無礼を」
「いや……。いい。行ってくれ。咎めはしない」
イグナーツが言うと、衛兵は深く一礼して駆け去った。
自由になったフィアをイグナーツが振り返る。
その顔を直視せず、フィアはうつむいた。とっさの行動だった。
以前、『ヴィクターに関わらないでくれ』とイグナーツが言ったのを忘れていないからだ。彼はまだ同じ気持ちでいるだろうか? ……違うと言える自信はない。レヴィンとは違う理由で、イグナーツも、ヴィクターと自分の関係を快く思っていないだろう。
彼は前と同じように、厳しい目つきで自分を見ているだろうとフィアは思った。
「ベリスに呼ばれて来た。きみがここへ来ているとは知らなかったよ」
しかし、イグナーツの声は、思ったよりも普通だ。
むしろ、優しいと言ってもいいほどだった。
フィアはそれに驚き、少しだけ顔を上げる。
「陛下に会いに来たんだってね」
イグナーツは穏やかな顔をしていた。出会ったころを思い出させるような。
「は、はい」
「でも、会えなかったって? さっきベリスに聞いたんだけど」
どうやらイグナーツは、ベリスに呼ばれてここへ来たようだ。
「そう……なんです」
「まあ、今日は謁見日だからなあ……。あれはなかなか中断できないしね。仕方がない」
「残念だったけど、いいんです。他の日に来ますから」
フィアは急いで言った。イグナーツが、自分を冷たい目で見ないことにほっとしながら。
そのあいだにも周囲は慌しくなっていく。
衛兵が松明を掲げ、列になって走っていく。フィアはそれを驚いて眺めた。
「城の中で問題が起こったんだ」
イグナーツも同じように衛兵の列を眺めながら、フィアに説明するというよりも、独り言のような口調で言った。横顔を見上げると、彼の瞳には、松明の炎が尾を引いて軌跡を残すのがはっきり映っている。
「問題?」
「そう。……侍女が死んだ」
イグナーツが呟き、フィアに向き直る。
フィアは一瞬言葉を忘れた。イグナーツが簡単に言った一言が、あまりに重いものだったので。
「えっ……。し、死んだって」
「いずれ、王妃づきとなることが決まっていた娘だった」
イグナーツは暗い顔で言うと、じっとフィアを見つめた。
「王妃、づき」
フィアはうつろな声で繰り返す。
突然告げられた死には、なんの感情も持てなかった。
ただ、なぜ、と思う。なぜ、そんなことに。よりによって自分が来た日に。
「昨日まで城の中は平和だった。何もなかったんだ。でも今日になって突然、こんなことに」
イグナーツの言葉に、フィアを責める気配はなかった。しかしフィアのほうは、自らそれに責任を感じた。修道院でも毒殺騒ぎがあり、城でもまた、それと同じように。これが偶然とは思えなかった。
しかも今度は死人が出た。クリステラは一命をとりとめ、無事だったのに……。
「もしかして、わたしがここへ来たからですか?」
そんなわけがないと思いながらも、きかずにはおれない。震える声で問う。
イグナーツは「どうかな」と、かすれた声で答えた。
「そうでなかったらいい、とわたしは思っているけどね……。だがいずれにしろ、きみはここにいないほうがいい。その侍女は毒殺された。きみも危ない。それに、一部によくない動きもある」
イグナーツはフィアの肩を抱き寄せて、歩き出す。松明を持っていない彼は、闇に簡単に紛れていた。フィアもそうだ。照らすものは月明かりだけ。
横を通り過ぎる衛兵たちは、炎からこぼれる火花を散らしながら「不審な者は全員捕らえろ!」と怒号を上げている。土を蹴散らし、足音も粗く広場を突っ切っていく。
衛兵たちの顔は怒りと興奮に歪められていた。
それから、松明の火花。鉄の靴音。武器の鳴る音。
周囲から、いやおうなく伝わってくる混乱の気配。
それらが遠くなっていっても、フィアは震えを完全におさめることはできなかった。
「よくない動きって……」
青ざめたままフィアは訊ねる。
イグナーツは前を向いたまま、軽く顔をしかめた。
「貴族たちの一部が、きみが王妃になることを快く思っていない。影で画策して、きみを陛下から遠ざけようとしている。陛下はそのことをご存じない……。たぶんね。でもそのことは、近衛の騎士たちにはもう通達されている。きみに近づけば、『いろいろとまずいことになるぞ』とね」
イグナーツの声に苦いものが混じる。
「そんな脅迫のようなことに屈する者がいるとは思いたくないが……。中には、自分の保身のために、きみから距離を置こうとする者も出てくるかもしれない。あるいは、自分の家を守るために。身分の低い騎士なら、伯爵や侯爵の命令に背くことは難しいかもしれない」
それを聞いて、フィアはさきほどのできごとを思い出した。フィルデールとイーゴリのことだ。
「イグナーツさんは……大丈夫ですか? 今、わたしと歩いてるけど、咎められませんか?」
「そんなことはきみが気にしなくていい」
頭上から振ってくるイグナーツの口調は、ちょっと怒っているように聞こえた。
「きみはヴィクターにとって大事な人間だ。周囲の雑音がどうであれ、わたしとしては、何より優先するのはヴィクターの意向だ。彼がきみを必要だというかぎり、わたしはきみを守るだけだ。──それに」
フィアはイグナーツを見上げた。
彼もフィアを見下ろし、少しためらったあと、言葉を継ぐ。
「セラエが『きみに助けられた』と言っていたから」
「セラエさんが?」
フィアは目を見張った。確かに彼女は今クラウザール家の居候だが、イグナーツの口からその名前を聞くのは、ひどく不思議なことのように思える。
イグナーツは頷いた。
「ヴァレンヌで、きみがいなかったら自分は死んでいたと、彼女は言っていた。話はすべて聞いたよ。だからわたしも、きみに対する考えを改めざるをえなかった。なぜヴィクターがあれほどまでにきみを特別視したのか、その理由がわたしにもようやく分かったんだ」
イグナーツはフィアの背を押しながら、足早に先を急ぐ。どこへ行くのかと怪訝に思いながら、フィアは彼にあわせて歩調を強めた。小走りくらいにならなければ、イグナーツの歩く早さに追いつかない。
「きみは聖女と呼ばれるに相応しい人間だった。たとえ本物でなかったとしても」
衛兵たちの喧騒を離れた夜の闇に、イグナーツの声がしんと染みた。
「きみの行いが勇敢だったことに変わりはない。だから王妃になっても、きっと立派にやっていけると信じている。結局、ヴィクターの見る目は間違っていなかった。今はわたしはそう思っている。前は、何も知らずにきみを責め立ててしまって、本当に申し訳なかった」
そのときだけイグナーツは歩調をゆるめ、フィアを振り返った。
そして、彼は深々と頭を下げた。フィアに向って。
「謝罪させてくれ。この通りだ」
「イグナーツさん……」
フィアはほかに言葉がなかった。
人が自分に頭を下げるなど、そんな経験は滅多にないので、どうしていいかわからない。
「あ、あの、い……いいんです。イグナーツさんが謝ることなんてありません」
フィアは消え入りそうな声になって言った。
「ヴィクターさんは、ヴァレンヌに行ったわたしを助けてくれたし……。そのせいで、変なことに巻き込んでしまったんです。だから……あの、イグナーツさんがわたしに言ったことは、なんにも嘘じゃありません。わたしは本当は、もっと早く、あの人から離れるべきだったんです」
フィアは自分の口から思わず出た言葉に、自らぎょっとした。
今、何を言ってしまったのだろう。
──もっと早く離れるべきだった?
自分は彼のために還俗してしまったのに?
「『離れる』? ……でもきみは、いずれ還俗するのだろう? ヴィクターのために」
イグナーツも同じ疑問を持ったのか、不思議そうに言う。
「え、ええ……。そのつもりです」
フィアはうなだれ、小声で言った。もう還俗してしまったとは、なぜか言い出せなかった。
今になってレヴィンの言葉が頭の隅をちらつく。
『すべてをなかったことにできる』。彼はそう言っていた。望むなら、どんな修道院にでも、戻してくれると。それがウルヴァキアでも、ヴァレンヌでも。──この国を去ることを望むのなら、そうできるのだと、彼はたしかに言った。
「あの……イグナーツさん」
「なんだい、シスター・フィア」
「その、亡くなった侍女の方って、おいくつだったんですか?」
イグナーツは何も答えなかった。
彼はまた歩き出した。無言で。
フィアも背中を押される形で促され、ついていくしかない。
「さっきのは失言だった。きみに言う必要のないことだった」
やがて彼は後悔したような声で言った。「忘れてくれ」
「でも、人が死んだんでしょう? もしかしたらわたしのせいで」
「違う。もし責任があるとしたら、それはヴィクターや、わたしたち城の人間が負うべき責任だ」
イグナーツはきっぱりと言った。
「きみが気にする必要はないんだ」
「人が死んでも?」
フィアは震える声で言った。
「そうだ」
イグナーツは迷わず答えた。
「何が起ころうと、きみは平然としていなければいけない。きみが取り乱したり、泣いたりすれば、ヴィクターはそのことに余計に責任を感じるだろう。そうなることをきみは望むのか? 彼を悩ませ、苦しませることを?」
フィアは答えられなかった。
言われてみれば、たしかにそうだと思うしかない。
自分がここで怖気づき、逃げ出せば、ヴィクターが傷つくだけ。
もし、彼も人並みに傷つくのなら──いや、傷つくはずだ。何を言っているのだろう?
「……そうですね。すみません、変なことを言って」
「いや、わたしのほうこそ」
イグナーツは言葉少なになった。
そのころになってようやく、フィアは自分がどこに連れて行かれているのかに気づいた。
目の前には、煌々と明かりの漏れる建物が迫ってきている。
大きな扉の両側には、槍を手にした衛兵が立っていた。
「これからも、つらいことはたくさん起こると思う」
イグナーツがぽつりと言った。フィアは彼の顔を見上げる。
「きみは見知らぬ人間に中傷され、信頼する者に裏切られ、あるいは去られるだろう。今までよりも多く泣かなくてはならないだろう。それでもヴィクターの隣にいてやってほしいと望むのは、わたしの我侭なのかもしれないが……」
彼はフィアを見下ろした。その顔はどこか悲しげで、憂いげに見える。
「きみにはそれができると思っている。シスター・フィア。ヴァレンヌで、法皇使徒の暴力からセラエを守ってくれたきみなら。かの地で、多くの病人を救ってきたきみなら。きみは本当は強い人間だとノイエ卿が言っていた。わたしも、その言葉を信じたい。きみなら何があっても乗り越えてくれると。──そう信じたい」
イグナーツは祈るように言いながら、衛兵の顔に視線を移す。
「近衛騎士イグナーツ=クラウザールだ。謁見希望者をもうひとり連れてきた。扉を開けてくれ」