――1枚目
初対面に毛が生えたような状態で、いや、正確には毎日顔を合わせていた筈だが、俺達の関係は最悪に近いほどの危機的状況にまで追い込まれていた。
「で?」
「何が」
至極不機嫌そうに一文字だけ発して質問を完了した気になっているそいつに、俺は努めて冷静に質問の内容を訊き返した。
えっと……なんだっけ、名前思い出せないや。確か席が一番隅だった、それで窓の外ばっか見てたのを、俺は視界の端にたまに留めていた。渡瀬……だったかな。
「何がじゃねえよ。何でこんなことになってんだよ」
(俺の記憶が正しければ多分)渡瀬某は、さっきよりも更に機嫌を悪くしてそう宣わった。
「ちょっと待てよ。それって何?俺の所為だっていう訳?俺だって知らねえよ」
「んだよっ……あー……と、あれ?」
「何?」
言葉に詰まったまま変な顔をしているから、俺は何を困っているのかと助け舟を出す。勢いよく文句を言おうとした途中で止められても、こっちだって何だか気分がよくないからだ。
「何だっけ?お前の名前」
俺が悪いと思って訊かなかったことを、あっさりと訊かれて、何だか無性に腹が立った。けれどそれを悟られないよう気持ちを落ち着ける。
「井上だよ。井上雅樹」
「ああ。俺は渡辺雄太」
あ、やべ、間違ってた……呼ばなくてよかった。俺は胸中でほっとする。
「で?ここ何処よ?」
渡辺が気まずそうにするでもなく言う。普通少しはすまなさそうな気にならないか?……俺も覚えてなかったんだからどうこう言える立場じゃないけど。
わかる訳ないと即答してもよかったけれど、それじゃあまりにも芸がないし、とりあえず辺りを見回してみる。
ある筈のものは何もなかった。いや、ある筈の、どころかほとんど何もないに等しかった。遠くまで見渡せるようで、けれど目に止まるものもないから遠くまで見えているようには感じられない。
「わかんない」
俺は正直にそう呟く。何だよ考えてた割にそれかよ、と渡辺がぼやく。自分だってわからないくせにどうしてこう態度がでかいんだろう?というか、こういう奴だったのか、こいつ。
「何やってたっけ、俺達」
今度は俺が訊ねた。そうだ、こういう時は遡ってみれば原因がわかるものだ。
「俺達?俺ら一緒につるむような仲じゃないっしょ」
単なる思い付きが段々と名案のような気がしてきたところを、渡辺が一刀両断にする。
確かに俺達はお互い名前もまともに覚えてなかったけれど、俺が言いたいのはそういうことじゃないだろ?それくらい普通わかるだろ……突っ込むべきところかどうかくらい。
「じゃあお前は何してた?」
俺はわざわざ単数形にして訊き直す。何となく忍耐力が身に付きそうな気がする。渡辺は少し視線を右上にやって、俺の質問の答えを思い出そうとしているようだった。
「階段降りてた」
ぽつりと降って来た言葉をそのまま話すように渡辺が言った。
……ああ、そうだ。階段。
「擦れ違いそこねたんだ……」