――2枚目
うちの学校の校舎は、木造じゃないだけマシというレベルで古い。その上、狭い土地にできるだけたくさん詰め込もうとしたかのように造りは複雑で、階段も細く急だった。
俺は先生に言われて図書館の古くなった本を整理するのに駆り出され、あまりに古過ぎて却って貴重な本なのかも知れない、ぱっと見ただの古くて汚い本をダンボールに入れ、どうするか聞く為に準備室へ向かう途中だったのだ。
「ほら、やっぱお前の所為じゃん」
「なんでそーなんだよ」
「都合よくそこまでしか覚えてないとか言うなよな?」
そういえば……――――そうだ、あの時、俺は階段を上っていて、渡辺が降りてくるのを折り返しで斜め上ダンボール越しに見た。
「大体、どう考えても一人じゃ無理そうなの持って、あんな狭いとこ上ってんなよ、危ないじゃん」
「って、お前は降りて来たんだから除けてくれればいいだろ?こっちは視界狭かったんだし」
「俺は端に寄ったってば。お前がそれでその後、俺に向かって本ぶちまけたから……一緒によろけて……」
踊場で二人ともそのまま壁に向かって倒れこんだ。逆に倒れたら階段からまっ逆さま、俺はある意味運がよかったのだろう……渡辺には思い切り不運だけれど。
「……じゃあ……、じゃあ、転んだのは俺が悪いってことでいいよ。俺が悪かったよ。でもそれとこれとは」
関係ないだろ、と言いかけて、俺は渡辺の様子がおかしいことに気がついた。何か言おうとして口を開いたまま固まってしまっている。
「なんだよ、どした?」
「後ろ」
相変わらず単語で話す奴だなどと思いながら後ろを振り返る。振り返って、すぐ、俺はばっと音を立てる勢いで顔を元に戻した。
……何だか、今微妙におかしなものを見たような気がする。いや、ここがすでにおかしくて有り得ない状況なんだから、今更驚くことじゃないのかも知れない。ああ、違う、それは変だ。
深呼吸して、もう一度振り返る。
やっぱり、それは、そこにいた。
「誰だよっ、お前」
丸めた膝の上で頬杖を突くようにして、もう一方の手をこちらに向かってヒラヒラさせているソレに問いかける。えらく友好的に見えたが、問題はそこではない。それが、俺の目線の上にいること……つまりは浮いていることだ。正確にいえば、空中にしゃがんでいる……というところ。
「やっと終わった?ケンカ。気付いてくれなかったらどうしようかと思ったわ」
トンッ、と音こそ立てなかったけれど軽く飛び降りるようにして地面に立つと、そいつはそう言った。俺は反射的にそこから少し離れる。後ろに下がった所為で、渡辺がすぐ隣にいた。
「うわ……派手なオカマ」
「お前っ他に言うことあるだろっっ」
さっきまで固まっていた渡辺の発した言葉に思わず突っ込むと、当の本人はどうして怒られたのかわからないといった顔をする。
いや、確かに……目の前にいるのは、渡辺の言う通りのものかも知れないけれど……そこは重要じゃないと思う。渡辺はとりあえず状況とは関係なく、思ったことをそのまま口にするらしい……短い間で俺が理解したのはそれだけだった。
「失礼だわ、“招かれざる客”のくせに」
そいつは、そう言って、言った割に気にしていない様子で、にっこりと笑顔を作った。