――3枚目
「たまーにいるのよね、“招待状”もなしに紛れ込むお客が。ま、最初に見つけたのがアタシで良かったわよ?あんた達ついてるわ」
派手なオカマ、と渡辺は評したけれど、それは別に安っぽいオカマバー(行ったことは勿論ないけれど)な感じではなく、どちらかといえば黙っていれば綺麗なお姉さんといえなくもない容姿の持ち主だった。
ただ、声は低くはないとはいえ女性のものではなかったし、何より格好が渡辺の言うように派手だった。――――派手、というより、奇妙。見たことのない民族衣装……もしくは、何かのショーのステージ衣装……といったところか。
「それから、一応言っとくけど。アタシはオカマじゃないわよ。だってアタシ、そもそも男じゃないもの。とはいっても女でもないけどね」
だからオカマだろ?と渡辺が言いたそうなのが横にいてわかった。黙らせておいた方が正解だろうと、さっきこっそり、なんも喋るな、と言っておいたのは間違いじゃなかったようだ。
「……というか、あんた達のいうところの性別ってもん自体がここにはない訳。理由は簡単、機能として必要ないから」
「ここ?ここって、何処な訳」
ここと向こうを区別しているのは、話ぶりから明らか。俺達はここを知らないけど、こいつは俺達のいたところを知っているのだ。
「何処。訊いてどうするの?ここが何処かを教えたって、貴方達はどうせここを知らないんだから仕方ないじゃない」
そう言われてしまえばもっともだけどそれで納得できるものでもない。かといってどう反論していいものかわからず言葉に詰まる。
「別に意地悪しにわざわざ来た訳じゃないの。親切で教えに来てあげたの、元の場所への帰り方」
「ホントに!」
思わず声が大きくなった。驚いた俺達に満足そうに頷いてみせる辺り、恐らくおだてとかにも弱いタイプなんじゃないだろうか?
「ここから帰るには、ここの人間の力を借りないといけないの」
その言葉に、嫌な予感を覚えて顔色を変える。もしやゲームにありがちな、全員仲間に出来たらクリアなんて言い出すんじゃないだろうな?あんなのゲームでなきゃ出来る訳がない。
「全員の力を集めろ……なんて、そんな無理なこと言わないわ。そんなのアタシ達にだって無理だもの」
まるで心を見透かしたかのように言う。ほんの少しだけ、ホッとする。
「力の大きい者の力を借りられればそれで足りるけど、それに、満たない力の持ち主の場合には、その分人数が必要になる。簡単でしょう?」
重い扉を協力して開けるようなものよ、と説明してみせる。仕組みはわかる、けれど、どうやって、誰に力を借りればいいっていうんだろう。この世界に知り合いなんていないのに。
「かといって、力の強い者が力を貸してくれるとは限らないけど。王のように気難しいのもいるし」
「王?」
渡辺が聞き返して、ついでのように、そういえばあんた名前は?と訊ねる。これだけ一方的に話しているのに、そういえばこいつはまだ名前を名乗っていなかった。
「名前は教えられないわ」
その答えに俺も渡辺も不審そうに相手を見る。名乗れないなんて、何か変だ。
「ここには、相手に自分の名前を教える習慣はないの。他人の名前を口にすることはできるけど。だって、自分の名前って一人でいるのには必要のないものじゃない」
――そうだ、ここは俺達のいた世界じゃない。俺達の常識とは違う常識があるんだ。違う常識、そう納得しようとして、実はどこかドキリとしたことに気づいた。自分一人でいるときの自分の名前……それに、何の意味があるのか……。
「あら……紹介状はあるのね」
何かを目に止めて、そいつは突然そんなことを言った。
「じゃあ特別に教えてあげる。アタシのことは『迷』って呼ぶ人が多いの。……そうね、みっちゃんのとこに行けばいいわ、彼なら力を貸してくれるでしょうから」
「みっちゃん?――連れてってくれよ、知り合いなんだろ?」
渡辺がそう言うと、奴は複雑な表情で首を振るだけだった。