――7枚目
「じゃあ、こんな美人が二人もいる訳だ」
悪びれずに渡辺は言った。お世辞のつもりではないだろう、何にしろ思ったことは口にしないと気が済まないのかも知れない。
やわらかそうな長い髪に、これまた表現に困る服装――しいて言えば中国の昔話の偉い女の仙人とかみたいな。髪の色が黒じゃないから、余計に不思議な印象を与えるのだろうか。
『美』と双子だという麗麗は、『道』の言う「美しくて、聡明な人」というのとはイメージが違った。決して麗麗が聡明に見えないのではない、むしろ彼女は彼女で理知的な印象を受ける。
けれど、あの『道』があんな表情で口にした、その雰囲気とは少し違って感じられる。麗麗の見せる華やかな美しさというよりは、もっとたおやかなとでもいうか、穏やかな美しさを想像していたからかも知れない。
双子というのは、顔が似ていても雰囲気がまるで違うこともあるしな……と思いながら、俺は不意に違和感を覚えた。あれ?と知らず小さく声に出していたようで、麗麗と話していた渡辺がちらっと「どうした?」というようにこっちを見た。
「いや……なんでもない」
違和感の正体がわからず、俺は曖昧にそう言った。なんだろう、でもまあ、きっと大したことじゃないんだろう、そう考えを打ち切る。
俺達には、もっと重要なことがあった。
「あの、麗麗……さん」
そう、確認しておかなければならないこと、それはひとつだけだ。
「貴方は、俺達に力を貸してくれるんですか?」
おい、と渡辺が軽く咎めるように俺の袖を引いた。それを無視して、麗麗をしっかりと見据える。後ろで渡辺が小さく舌打ちした音が聞こえた。
『迷』に聞いてここへ来たからといって、彼女が俺達が元の世界に帰る為に力を貸してくれるとは限らなかった。大体にしてその『迷』本人が、一番どういうつもりなのかわからないのだから。
特別だ、と言って帰り方を教えてくれた、『道』のことも教えてくれた。けれど、『道』のところへは一緒に来はしなかったし、誰もが力を貸してくれる訳ではないといいながら、誰を避ければいいのか肝心なことは教えてくれない。かと思えば、こうして麗麗を『道』の元へ寄越したりする。
よくよく思い返してみれば、『迷』自身、協力してくれるか否かについて、彼は一言も言及しなかったのではないだろうか。
「そうね、私には貴方達に力を貸す義理がある訳ではないものね」
疑問に思うのも当然よね、と麗麗は笑った。
「でも、『道』には前に『美』が世話になったからね。『道』が協力するというなら、私も力を貸すわ」
麗麗があんまりあっさりと言ったから、俺はただ間抜けに、ありがと、と漏らす。
渡辺が愛想よく礼を言い、両手で握手し上下に大きく振り、大げさに感謝を示して、それからちらりとこちらを睨むように見た。
いきなりあんな訊き方するなんて失礼だ。目がそう言っている。それを苦笑でかわして、思う。確かに、ここで機嫌を損ねて気が変わったら困るし、と。
渡辺の言う意味がそうじゃないことなどわかっている。あいつは頭の回転は早いし要領もいいけど、計算で動くような奴でもない。失礼は失礼、それ以上の意味はない。
「それで、どうする?麗麗が協力してくれるって言うんだし、予定通り『美』のとこ行ってみる?」
渡辺が振り返って言う、既に表情はいつものあいつだ。
「そうだな……」
答えて、顔を上げた拍子に『道』と麗麗の顔が見えた。少し困ったような表情に見えた。その表情は気にはなったけれど、俺は、行こう、ともう一度はっきりと告げた。
実は、『美』に会ってみたいと、そう思う気持ちがあった為でもある。『道』があんな風に言う人物、麗麗の双子の……あれ?
また、少しの違和感が疑問とともに浮かんだ。